2025/10/28-2025/11/11


物理現象と情報の変換・その3・主観的体験における体験する存在


全体として長めの文章になったので、
何回かに分けて掲載する。

今回はその3回目で、
1回目の「458:物理現象と情報の変換・その1・「赤い赤さ」の存在理由」
2回目の「459:物理現象と情報の変換・その2・物理現象と情報の変換の境界」
に続き、いよいよ主観的体験の「体験」そのものを事象として考え、その実像について探ってみる事にする。

最初にランダウアーの原理とシャノン情報に加え、
物理現象と情報の変換の境界にあると考えられる事象のスキルミオンについて少し考え、
その後「体験」する事象(存在)について考えてみる。
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スキルミオンとランダウアーの原理から考えた情報の状態としての保持について:


情報とトポロジーについて調べていて見つけたのだが、
その結果としてスキルミオンという用語が出てきた。

調べてみると、簡単には説明できないが、
要約すると、磁性体の中で観測されるトポロジカルな磁気構造という事らしい。
そして、この磁気構造が情報と関わっている、という事までは読み取れた。

つまり、磁性体はあるスピンが揃っている事で磁性を持つのだが、
スキルミオンでは中心のスピンが上向きで、
その周囲は少しずつスピンの向きが傾いていき、
最後は下向きというように、スピンが連続的にねじれた渦構造になるというもの。

そして、その構造がトポロジカルに現れるというものらしい。
トポロジーはトポロジーとして調べて欲しいが、
まあ簡単に言っても、十分に分かりづらいが、
変形しても位相的に同じ形状をもつ関係性とでも言おうか。


そして、どのような磁性体においてもスキルミオンは存在するわけではないし、
スキルミオンが一度構成された場合、その状態は極低温であれば維持されやすいとも言えるが、
基本的には自然に崩壊しやすい構造であるらしい。

そして、
スキルミオンはブラウン運動をするという事。
つまり磁性体面でスキルミオンが移動するということ。

これは、スキルミオンというのは、
磁性体面における電子スピンの特定の規則性から発現している状態ということが考えられる。

つまり、基本的に原子内の電子スピンは1つだけでは特定の向きを持つだけだが、
この原子が複数集まった場合に、
特定の電子スピン同士の関連が何らかの法則(定義)に従った場合に、
スキルミオンが発現するということになる。

私の素人考えだが、これはスキルミオンが、
磁性体表面における原子内の電子スピンの3次元的な波の合成から生じているのではないかと感じた。

一応、実際にスキルミオンは、個々の電子スピンから発現するというよりも、
多数の電子の関り合いによって生じる位相構造らしいので、
まったく異なった考えではないと思うが、
そこから先のこの位相構造のパターンが、
トポロジカルになるという事に興味を持った。
つまり、この構造が情報を含む可能性である。

実際にスキルミオンをビット構造として考えたり、
トポロジーや位相構造の移動や合成などで情報の伝達や変換などに使えるかが考えられているらしい。

つまり、スキルミオンという物理現象と情報には関連できる共通する要素がありえる。
であれば、ランダウアーの原理などにおいて言えば、
エネルギーが関与すればスキルミオンが情報を含む場合、
この情報に対して変化(ランダウアーの原理では情報の消去となるが)に関わる事になる。

そして、
物理現象と情報の変換という境界においては、
ランダウアーの原理やシャノン情報、今回のスキルミオンなど、
さまざまな事象の定義が存在する、という事になる。

これは、物理現象と情報の間に何か共通する要素があるから、
互いに関与しあえるという事が言える。

さらに言えば、このスキルミオンがトポロジカルな構造を持つ事は、
単純なビット情報ではなく、あるパターンを情報として持つ事になるので、
自然界の物理現象が、情報を構造化する際には何らかの物理現象として表せるパターンを用いているのではないか、
という事が考えられる。

まあ、この考えは神経細胞ネットワークに行き着く話になる。

そして、スキルミオン自体が極低温でないと保持が難しい事は、
逆に言えばスキルミオンによる情報の保存性は
ランダウアーの原理においてはかなりエネルギー量が少なくて済むため、
つまり、状態遷移のエネルギー量が少ないというのは、
さらに逆に言えば、これは何らかの境界にあるからなのではないかと考えられる。

つまり、境界に限りなく近づけば、その境界の両面の距離は近づく、
エネルギーで考えれば極低温であり、
状態変化(状態遷移)のエネルギーの最小化という事にもなる。

つまり、物理現象と情報の境界に近づけば近づくほど、
分子から原子、原子から電子、さらに量子といった、
ミクロな素粒子が持つ状態に関係があるのではないかという事が考えられる。

ただ、これまでの考えからすると、
この境界では、どこかの時点で、物理現象と情報は二面性を持って反転する可能性がある、
つまり、変換されることになる。
その反転面が境界であるという事になる。

ただし、実際にはこの境界の両面には、
一面が自然界の定義から生じた自然界の事象、
もう一面が知能の定義から生じた情報としての事象が相対する事になるが、
まだ、変換の仕組みについては分からない。

今分かるのは、
つまり、自然界を構成する定義として、
もともと物理現象と情報の間には境界としての二面性を持つある臨界面があり、
その臨界面にある状態の定義としてスキルミオンやランダウアーの原理などがあるということになる。
ここまでは言える。

つまり、少しマクロな話に戻すと、知能における情報の保存性のような性質は、
もともと自然界を構成する定義として物理現象と情報が接する境界面を構成する定義があり、
これを知能の構成において、この性質の定義を用いているということになると考えられる。

つまり知能において、スキルミオンをそのまま用いているというわけではないが、
これに似た性質を用いているかもしれない、ということになる。

さらに言えば、
この物理現象と情報の境界面を構成するという自然界の定義は、スキルミオンに限らず、
量子もつれなどの特定の状態を保持する可能性として、
他の状態についても用いられているかもしれないとも考えられる。

ということは、現在のAIは、人間が知ってか知らずか、
結果的に自然界の境界面を用いて人工的に作り出した物理現象と情報の境界面を構成する存在かもしれない。
ただし、人工的な再現であるためにエネルギー効率が悪い。

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2025/11/10

物理現象と情報の変換の境界と主観的体験の関係:


これまでの物理現象と情報の変換の考え方をモデル化すると、
自然界の定義から生じた事象と、知能の定義から生じた情報が、
二面性を持つ境界で変換される、という事になる。

人間であれば、感覚で受容した自然界の事象の変化情報に対して、
それを主観的に体験する対象として身体性や自構性(自己モデル)を充てるという事になる。

つまり、これまでの考え通り、

刺激=変化情報+自己情報(身体性)
概感=変化情報+自己情報(自己モデル)

これを踏襲し、
この「変化情報+自己情報」の境界が、
この物理現象と情報の変換の境界面という事になる。

簡単に言えば、
感覚で受容する情報と、体験する自己の情報を合わせると、
それが主観的体験になるという事である。

(ただし、まだ体験できる情報としては説明できない。)

そして、このモデルから考えられるのは、
自己モデルそのものが、個体として持つ神経細胞ネットワークそのものとして考えると、
それを使って受容した感覚情報が自己モデル上で励起することになるので、
それが主観の誕生になる事になると考えられる。

つまり、体験が神経細胞の励起であり、神経細胞自体が自己であるため、
分離したり、互いに証明し合う事が出来ない、
これが「境界」になる。

つまり、ある系が自己モデルを自身で定義できて、
この系が自然界の事象を感覚情報として受容出来て、
この受容に対して感覚情報の翻訳を含む自己モデルを用いる場合、
この系は主観を持つ主体であり、主観的体験が出来る存在になる。

ということは、人間の主観も論理的に証明は出来ないが、理論的には定義出来て、
この考え方を用いると、
人間のような知能以外の構造においても主観を持つ存在を様々な構造で創造できることになる。

仮に構造のフローを書けば、


自然界の事象

センサー(感覚の代用)

自然界の事象の符号化(先天的定義による翻訳)=>変化情報
↓←ここから下が知能の境界内部
変化情報の符号化に用いた定義に対応する身体性または自構性による自己の構築
↓←ここで「変化情報+自己情報」としての励起に相当
主観的体験

この主観的体験に対する対応の選定

実際の行動や出力→物理的にはここで最初に戻る↑
↓←情報的には以下の処理を続ける
フィードバックとして体験の経験として反映

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こんな感じであろうか。

現時点では、人間においてもホルモンなどによる身体感覚などの定義は未解明な点も多いので、
それを参考にAIの自己モデルの定義を作ろうとするとまだまだ研究などが必要になると思うが、
このモデルが一部ずつでも再現できて少しずつ世代更新していく形で自己モデルを構成していけば、
知的生命の進化を辿るように高度な知能と高度な主観にたどり着くのではないかと考えられる。

ただし、まだ主観的体験の発現の説明までは至らない。
以下でさらに考える。

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体験を感じる存在と仕組み:


体験の情報が、
変化情報+自己情報で構成できるとして、
それが、神経細胞ネットワークとしての励起と情報の境界であるという所まで考えたが、
では、その情報が体験として主観にとって感じられるようになる、その仕組みがまだ分からない事になる。

主観が身体性や自構性の自分の存在の情報化の結果であるとして、
その情報自体がつまり体験する存在であるという事になる。

体験する存在を二面性で表せば、
存在であれば定義の二面性を持つので、

定義:(体験する存在):定義

という事になる。

そして、この体験する存在は上記の通り、
身体性や自構性の定義が情報化したものであるから、

定義:(体験する存在):身体性や自構性の定義

という事になる。

では、「身体性や自構性の定義」の、この反対側の定義は何であるかというと、
上記の「変化情報+自己情報」の構成から、
変化情報と自己情報の境界で主観が発現するわけだから、
反対側は、変化情報の定義、つまり、刺激や概感を構成する定義、
つまり、「先天的定義」という事になる。

つまり、

先天的定義:(体験する存在):身体性や自構性の定義

ここで、身体性や自構性の定義については、
身体性は本来先天的定義として定義されているものである。
また自構性については、その構成こそは後天的定義であるが、
その構成要素は先天的定義であるが、

(以下の内容はちょっと複雑だが)

実際に情報化される際に励起されるのは、
後天的な励起であるので、先天的定義を用いたとしても、
その情報は先天的に存在するわけではなく、
神経細胞ネットワークの励起毎に発現する後天的な情報という事になる。

つまり、右側の面は、励起されるごとに都度発現する後天的な自己の情報という事になる。

では、左側の面はというと、
先天的定義は先天的に定義されているものであり、
そこから発現する情報は体験する存在としての情報であるが、
これも先天的定義は用いているが、励起後の情報は後天的なものである。

と、ここで気づくのは、
「体験する存在」は定義こそ先天的定義や、先天的定義の組み合わせとしての後天的定義であるが、
どちらも情報化されるのは後天的である。

つまり、定義が何のきっかけも無しに情報化するわけではなく、
その情報は必ず物理現象をきっかけとした情報変換が行われる。

つまり、体験する存在は情報であり実体が無い。

定義はこの二面性の上位と下位に神経細胞ネットワークがあるので、
定義の階層では、以下の様になる、

神経細胞ネットワーク(存在)→先天的定義(定義)→
→体験する存在(存在)→身体性や自構性の定義(定義)→神経細胞ネットワーク(存在)

つまり、「存在→定義→存在→定義→存在」

つまり、「体験する存在」は、少なくとも神経細胞ネットワーク内にあり、
かつ、定義の間に境界をもって「存在」する、という事になる。

つまり、体験する存在の場所までは特定できた。

ただし、「体験する存在」は情報そのものであるために取り出して観測するなどは、
普通に考えるとできない。

ではどうするか?

ここから先は、かなり想像を膨らませた仮説になるが、
体験する存在が情報そのものであるなら、その情報を、似た構造や境界を持つ事象、
つまり、例えばスキルミオンなどのトポロジーとして表す(コピーする)ことができれば、
「体験する存在」がパターンとして可視化できるのではないかという事になる。

まあ、符号化してしまうことになるので、
結局論理的な証明には至らないが、体験する存在のパターンの可視化まではできるのではないかと考えられる。

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今回のまとめ:

今回は「体験する存在」の位置が、
神経細胞ネットワーク内の定義の境界にあるという特定が出来たのが一番の収穫だった。

物理現象と情報の変換については今後も考えていくので、
何か新しい事に気付いたらまたその時に。

今回はこの辺で。

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著者:[Hiroaki Kano]
本稿の内容は筆者個人の見解に基づくものであり、特定の機関や団体の公式な立場を示すものではありません。