2025/9/5-2025/9/9
人工知能理論・その7・事象プールと事象再生の場(2025年9月版)
現時点までの当ホームページの、
人工知能理論における様々な考え方を一通りおさらいして、
今後の課題や新たな問題点の抽出を試みる事にする。
最初に出来るだけ簡潔にまとめ、
以降に内容の詳細を記載する。
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事象プール・事象再生の場について:
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事象プールも事象再生の場も、
人間の知能の働きを参考として考え出したものだが、
あくまで人工知能向けのソフトウェア的な機能であり、
人間の知能においては恐らく物理的に構築されている機能として存在しているはずである。
つまり、人間の知能においては、
その働きが脳内の細胞レベルの働きとして備わっていると考えられる。
事象プールについて:
事象プールは感覚器官の受容体から得た変化に対する信号を、
定義を用いて刺激や概感として構成した情報塊を、
プログラム的に言えば、コレクションの様に集め、
必要に応じて事象再生の場で、実際に刺激や概感を構築する為に用いる人工知能用の機能となる。
人間の知能では、神経細胞ネットワークの励起によって、
半自動的に刺激や概感が、認識や想起対象として「選択」される機能を持つが、
人工知能においては、実際に刺激や概感として構築する前に、
それを一度集めて、どれを優先して「選択」対象とするか比較する必要がある。
その為の刺激や概感の構成を保持しておく場が事象プールという事になる。
この機能は、
現在の私の推測だが、人間の知能では、刺激や概感を定義する神経細胞ネットワークの励起が、
とめどなく行われているが、実際に認識や想起に至る刺激や概感は、
ある瞬間に知能が観測することになる最も情報として強い励起が行われた刺激や概感が対象となり、
この刺激や概感の認識や想起が情報としての連続性を持つ間は、
他の刺激や概感は認識や想起に至らない。
そして、刺激や概感の認識や想起が終了に近づく際、
この次の瞬間に存在する最も情報として強い励起が行われていた刺激や概感が認識や想起対象となり、
連続性が維持されると考えられる。
後付けだが、この選択の働きは興奮性神経細胞と抑制性神経細胞の兼ね合いによるものだと考えている。
事象プールにおいては、刺激や概感は「変化情報+自己情報」の構成情報のみが保持され、
実際に刺激や概感として構築されるのは次の「事象再生の場」においてという事になる。
事象再生の場について:
知能が覚醒を開始した際、この瞬間において事象プール内で最も情報として強い構成が行われた刺激か概感を、
仮想空間内で、実際に、
刺激であれば「変化情報+自己情報(身体性)」という構成を「身体」として、
概観であれば「変化情報+自己情報(自構性)」という構成を「自己モデル」として、
構築する場(仮想空間)になる。
刺激の場合は、
仮想空間内で自己情報の身体性から自己の身体を構築し、
その身体の感覚器官の受容体の存在する位置に変化情報を受容した、という形で構築する事になる。
概感の場合は、
自己であるが身体のような物理的な実体としてではなく、
仮想空間内の別レイヤで、自己情報の自構性から自己モデルを構築し、
その自己モデルが想起する構成となる。
概感は、きっかけの刺激または概感に関連し、
過去の体験や経験の記憶に対する後天的定義から構成される定義による、
概感を構築する事になる。
(概感について詳しくは:「445:人工知能理論のまとめ5・刺激と概感」を参照してもらいたい)
つまり、事象再生の場において、
刺激の場合は、実体が存在する身体と変化として刺激を構築し、
概感の場合は、実体が存在しない、自己のモデルに対する変化が思い出される形で概感を構築する事になる。
知能が自己の存在として観測対象とするのは、
この事象再生の場における「刺激+身体」または「概感+自己モデル」であり、
刺激と概感にはそれぞれ、身体性または自構性(自己モデル)が含まれている為、
「刺激を認識する」または「概感を想起する」ことで、
その認識や想起における自己の存在の連続性が意識の対象となり、
認識か想起がどちらかを背反的、連続的に行われる事で、意識の連続性が生じる事になる。
簡単に言えば、
刺激→認識
概感→想起
認識または想起の連続性→自己の連続性→自己の意識の連続性
という事になる。
もう少し詳しく言えば、
刺激の認識は、
仮想空間内に、情報の仮想体ではあるが、
主観的には実体の身体を構築し、
その身体上に、物理的な実体の身体が受容した変化を再現する形となる。
また、概感の想起は、
刺激の様に身体に接した変化として概感を構築するわけではないが、
仮想空間内に自己モデルに関連したイメージ(概形)のような形で概感を構築する事になる。
ただし、、概感は、それらのイメージが直接自己の身体に接していないというだけで、
例えば「赤い色」は「赤い色」として構築されるし、「映像」は「映像」として、
匂いも、感触も、感情などの身体感覚においても、
実体の身体ではないが、客観的に見える自己の身体に対して変化が接しているように感じる事になり、
表現が難しいが、
「概感」を、この「客観的自己が感じている様」に、「主観的自己が感じる感覚」が「想起」という事になる。
そして、認識か想起の背反的な連続性における、
身体または自己モデルの連続性が、自己の存在の意識の連続性になる、
というわけである。
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以下は「事象プール・事象再生の場」の内容の詳細や疑問の解説。
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解説:事象プールと抑制性神経細胞の働きについて
人間の感覚の場合、おおまかには、
感覚器官の受容体で身体内外の変化情報を受容し、
受容体としての神経細胞が励起された場合、
この励起信号は脳方向へ送られ、
遺伝的に先天的に持つ定義としての固有の神経細胞ネットワークが励起される事で、
刺激としての情報が構築され、「変化を受容した身体」という情報を認識・意識する事になる。
この時、抑制性神経細胞の働きにより、
脳内で物理的に必要と判断されない情報(つまり、何らかの定義でフィルタリングされる情報がある)は、
除外される。
抑制性神経細胞は、
人間で言えば刺激などの情報が短期記憶に移行する前も後も活動しているらしいが、
事象プールと事象再生の場の考え方で言えば、
事象プールー>事象再生の場の間に機能する活動という事になる。
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抑制性神経細胞についての疑問と回答:
(既に抑制性神経細胞を知っている場合は読み飛ばしてもらっても大丈夫です)
疑問:抑制性神経細胞の働きは、刺激を情報として構築する際に働いているのか、
認識や意識の際に働いているのかどちらか判明しているか?
答え:どちらでも働いているらしい。
刺激の構築時は他の余計な情報のフィルタリング。
認識や意識においては、情報塊のフィルタリング。
疑問:刺激の感覚処理における抑制性神経細胞の働きは分かりやすが、
脳内において認識や意識対象としてワーキングメモリーにこの刺激の情報が移行した場合、
その後で働く抑制性神経細胞の機能というのは分かるか?
答え:他の干渉を防ぐ「維持」や、
入れ替え時の元の情報の「消去」などに用いられる。
疑問:つまり、刺激情報の「維持→消去→導入→維持→・・・」という機構で、
適時、抑制性神経細胞が働いているということか?
答え:その通り。
疑問:この「維持 → 消去 → 導入 → 維持 …」というループ構造は、
脳波と関係があるのではないか?
答え:関係があるらしいがまだ未解明。
疑問:ワーキングメモリーの情報ループが、脳波としてのリズム構造と関連している事が、
抑制性神経細胞の働きであるか、明確な実験などで証明されているか?
それとも現時点では「恐らく」関係しているという程度か?
答え:何か関係がありそうということは分かっているらしい。
リズム生成や脳波の位相制御に抑制性細胞が関与していることは明確に証明されているらしいが、
それが「情報の維持・消去・導入」という処理ループに「どう同期しているか」については、
有力な理論と一部の実験的支持があるが、まだ仮説段階の部分も多い。
疑問:つまり、神経細胞の機能の概念において、
ある瞬間において最も強い情報として知能内で認識に至るような刺激について、
一時的に、その刺激がワーキングメモリーに存在する様に働くという考え方で良いか?
答え:器官としてワーキングメモリーが存在するわけではなく、
この強い情報の連続性が維持される機構がワーキングメモリーという概念として考えられている、
というだけ。
つまり、記憶のインスタンスを処理する機構がワーキングメモリーということになる。
疑問:神経細胞の機能として強い情報であるという事は、
一定時間の発火の頻度が高いということになるが、
一般的に神経細胞は一度発火した後はNa+K+イオンチャネルによる電位の回復まで次の発火が行われず、
一定時間を必要とする。
ある連続した認識状態にあって、次の瞬間の新しい強い情報刺激が発現した場合、
それ以前の刺激の励起というのは明確に抑制する必要があるのか?
それとも時間経過によって、自然に淘汰されるのか?
答え:明示的に抑制が行われるらしい。
疑問:ということは、視覚である対象を見て、
この対象の存在を刺激として認識した場合、
ワーキングメモリー内の情報はこの対象が継続して維持されているというよりも、
フレームのような概念で都度新しく置き換わっているという考え方になるか?
答え:これは正しいらしい。
疑問:脳の神経細胞の発火の関連の連続性を可視化すると、
起点から網の目のように発火が広がっていき末端で消えるようなフラッシュのようなイメージになるが、
この起点から末端までの1回の連続性が脳波なのか?
答え:そういうわけではない。
疑問:1回のスパイク伝播と脳波の周期の時間差はどのくらいあるか?
答え:スパイク伝播は数ミリ~10数ミリ秒程度。
脳波にも近い周期もあるが、
ほとんどの脳波(10ミリ~2000ミリ程度)の方が明らかに長周期。
疑問:ということは、各脳波の時間内に行われるスパイク伝播によって、
各脳波における状態の時間の感覚は異なるか?
つまり、脳波の1サイクル間のスパイク伝播回数が多い方が時間が長く感じられるか?
答え:そんなに単純ではないが、可能性はある。
疑問:腔腸動物と刺胞動物の間を補完するような生物種はありますか?
現在は腔腸動物は刺胞動物と有櫛(ゆうしつ)動物に分けられる。
これらの元になる生物種は海綿動物(Porifera)。
神経細胞も筋肉も持たない動物。
しかし、化学信号の伝達、電位変化、細胞間コミュニケーションの機構は持っている。
神経系の前駆体(プロト神経システム)を持つのではないか、という事になる。
疑問:つまり、海綿動物から刺胞動物、または海綿動物から有櫛動物、
この間に抑制性神経細胞の起源がありそうということになるか?
答え:恐らくは。
疑問:つまり、人間などの種は刺胞動物から神経系を受け継ぎ、
有櫛動物は独自の神経系を進化させたということになるでしょうか?
答え:分類学上からはそういう事になる。
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解説:抑制性神経細胞による事象プールでの情報の選択
抑制性神経細胞の働きについて調べていて気づいたのは、
抑制性神経細胞の構成が個体の知能毎に固有である可能性と、
その可能性により、自己情報の定義として用いることが出来るのではないかという事。
つまり、先天的定義としての抑制性神経細胞の働きは、
生物の知能においては、その生物種としての性質や、個体毎の資質・素性のような定義であり、
基本的に後天的に変更されず、知能にとっても先天的な固有の定義となる。
しかし、後天的定義として構成される抑制性神経細胞の構成があるとすれば、
それは可塑性のある個体固有の情報フィルタリング機能という事になり、
これは、個体の自己の定義ということになるのではないか?という事になる。
つまり、これまで明記の難しかった、
知能における「選択」において「もっともらしさ」の定義が、
この後天的な抑制性神経細胞の構成で説明ができるのではないか、
という事になる。
つまり、事象プールから事象再生の場に認識や想起の対象として送られる刺激や概感を、
この後天的な抑制性神経細胞の構成でフィルタリングするのであれば、
それはこの個体の知能の固有の性質によるフィルタリングになり、
事象再生の場で再現されるのは、自己の定義として「もっともらしい」対象が再現されるのではないか、
という事である。
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疑問:実験的に抑制性神経細胞が後天的なシナプス接続を行う事は確認されているか?
答え:実験的にも確認されている。
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解説:抑制性神経細胞の構成が後天的に可塑性を持つ事について
後天的な抑制性神経細胞の構成が、
情報のフィルタリングや選択性の元になっていて、
自己モデルの定義にも関与するのではないか?
という事について、
以下のような事が言える。
抑制性神経細胞の接続・活動は後天的に変化する。
この変化によって情報の選択性や行動・知覚の変化に関与する。
であれば、自己モデルの更新や選択における「もっともらしさ」の基準に関与している可能性がある。
まあ、まだ気づきの段階なので、
この機能や構成については後で考える事にする。
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課題:体内の先天的定義が未解明であることについての対応策
現時点で特に課題の中心は、
知能が先天的に持つべき先天的定義で、
人間で言えば感覚器官から受容した変化に対して意味付けを行う定義、
例えば「光の600~700nm」が「赤」であるような定義で、
これは体外的な五感の変化としては明記しやすいが、
身体内の変化についてはまだ未解明な部分が多く、
後天的な定義は先天的定義を元にして構成されるという考えなので、
先天的定義が解明されない限り、後天的な定義ができない事になる。
対応策としては、
体内の変化に対する先天的定義は、
人間が認識しうる変化の各項目に対して、
それらしい仮の定義を用い、初期の強い人工知能は構成せざるを得ないかと考えている。
ただし今回の気づきで、
抑制性神経細胞の働きが可塑性を持つのであれば、
ある程度、仮の先天的定義も補正ができる事になるとは考えられる。
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今回はこの辺で。
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